甘え下手
「泣かせてごめんな?」

「……泣いてないしっ」

「もう一人で泣くなって言ったのに本当にごめん」

「……だから泣いてませんってば。阿比留さんのそばじゃないと泣かないって決めてたから。次に泣くのは阿比留さんから別れ話を切り出されたときだと思ってました」


気まずくなって阿比留さんから目を逸らしたまま、炊きあがったお釜の蓋を開けてお茶碗に鯛飯をよそった。

阿比留さんがスッと立ち上がったのが視界の端に移ったけれど、気づかないフリで二人分のご飯をよそっていると、後ろに回った阿比留さんが私を抱きしめてきた。


「……もしかしてそれで俺のこと避けてた? 怒ってたとかじゃなく?」

「……はい。いや、怒ってますけど、もちろん」

「俺と別れたくなくて? 可愛いなー、比奈子は」


ぎゅむ、と首に手を回されて頭を抱っこされる。


怒ってるって言ってんのに。

あの浜辺での大告白を聞かれてしまっては、何を言っても肩なしだ。


私も謝ってばかりの阿比留さんよりも、こっちのデビルさんの方がずっといいから、黙って頭をわしゃわしゃされておいた。


「後で一緒に風呂入ろうな?」

「……はい」
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