甘え下手
「比奈子がマンションの風呂入ろうって誘っても狭いから無理って言うから、広い風呂ついてるとこ選んだんだけどなー」

「そ、それは……」


もちろん狭いなんてのはただの言い訳で、実際は明るいところで身体を見られるのが恥ずかしいからだ。


だけどその言葉通りに広いお風呂があれば、一緒に入れると思ってここを予約したんだったら、阿比留さんはなかなか可愛い人だと思う。

思わず緩みそうになる頬を、両手で覆って隠しておいた。


「やっぱ足伸ばして入れる風呂はいいよなー」

「阿比留さんおっきいですもんね」

「広い風呂ついてるとこに引っ越したいなー」

「あー、広いお風呂いいですね」

「一緒に住む?」


一瞬、何を言ってるんだろうとポカンとして、それからかあっと頭に血が上った。


「広い風呂のマンションに住んだら、比奈子と毎日一緒に入れるじゃん」

「……またお兄ちゃんに投げられますよ……」

「いいんじゃない? 投げさせとけば」


一旦、お兄ちゃんに投げられた阿比留さんは、もうお兄ちゃんがちっとも怖くないらしい。

お兄ちゃんは何て言うだろう。


阿比留さんがここに来ることを許してるぐらいだから、もう認めてくれたってことなのかな。
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