甘え下手
襖を開けて部屋へ戻ると、しっかりと布団が二組敷いてあって、その手際の良さに感心する。

阿比留さんも「気がきくな」とますます上機嫌そうだった。


私達がお風呂ではしゃいでいる間にせっせと布団を敷いてくれていたんだと思うと、恥ずかしいような申し訳ないような、いたたまれない気持ちになる。

はしゃいでた声なんて聞こえてないよね……!?


阿比留さんはゆっくりと私を布団の上に下ろすと、立ち上がって部屋の電気を消した。

床の間の間接照明だけが灯って、やたらムーディな感じに胸がドキドキする。


「比奈子」


名前を呼ばれたけれど、返事をすることはできなかった。

すぐに阿比留さんの唇が私の唇を塞いだから。


目を閉じてゆっくりとその柔らかい感触に浸る。

ああ、阿比留さんがここにいるんだなあと思うと、自然に首の後ろに手を回していた。


キスに応える私に、「積極的」だなんてからかう阿比留さんはもういない。

唇を離すと熱っぽい瞳と目が合う。


ドキドキする。

その瞳に灯る肉食獣のような艶めく強い光に、心ごと捕らわれてしまう。


そして自ら捕食されたくなってしまうのだ。
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