甘え下手
デートの予行演習
「相手が食事でいいっつってんだから、ゴハンおごってあげればいいんじゃん?」


秋菜の答えは実にアッサリとしたものだった。

阿比留さんは女性に不自由してないので、周りにいないタイプの私に興味を持っているだけなのだろうと。


そしてモテ男はプライドが高いから、私が櫻井室長に片想いしていることを知って、あえて私に手を出してくることはないだろうと。

つまり、結局は私はやっぱりからかわれているだけで、相手になんてされていないのだ。


秋菜の見解を聞いて、なるほどと納得した私は、それだけでずいぶんと気持ちが楽になった。

それならば、あえて狙われやすい沙綾を阿比留さんに会わせずに、オモチャ的暇つぶし要員の私が出動するべきなのかもしれない。


「食事かぁ~」


お詫びとして誘うならば、少し格式ばった場所の方がいいだろうか。

居酒屋はマズいだろうし、この間みたいに焼き肉って感じの仲でもない。


お店、探さなくちゃなぁと考えながらフロアを歩いていると、「百瀬、昼休み終わったばかりなのに、もう食事のこと考えてるのか?」と櫻井室長に声をかけられた。


「さ、櫻井室長……!」


オフィスで声をかけられるのは、家で話しかけられるよりもずっと緊張する。
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