甘え下手
休憩コーナーには誰もいなくて、自販機の前で何を買おうかしばし悩む。

ちょっとお腹も空いたし、疲れたときには糖分補給だ、といいわけして砂糖たっぷりの甘いココアのカップを買うことにした。


ボタンを押して、自販機がカップに注ぎ終わるのをじっと待つ。

それにしてもサタンめ。


「サタンめ、サタンめ~……」


ぶつぶつと恨みごとを言いながら、罪のない自販機のボタンを連打してストレスを解消する。


「連打したって早く出ないだろ」


後ろから笑いを含んだ声で揶揄されて、その聞き覚えのある低音にハッと我に返った。

本日、二回目のデビルさんだ。


出先から帰ってきたところなのか、キッチリスーツを着込んでノートパソコンの入ったビジネスバッグを持っている。

仕事のデキる男って感じだ。


確かにスーツをかっこよく着こなせるスタイルを持ってる阿比留さんは、社内でキャーキャー言われるのも納得できるかもしれない。

そう思いながらしげしげとながめていると、阿比留さんが呆れた笑いをこぼして言った。


「なんでガン見してんの、比奈子ちゃん。もうそれ出終わってるだろ」

「違います。見とれていません」
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