甘え下手
「いや、近いけど」

「お兄さん、いるって言ってましたよね。仲良しですか?」

「……なに、急に」


え? 私そんな変なこと言ったかな?

会話の流れで聞いただけだったんだけど。


なんとなく不穏な空気になったことを察知して、私は話題を変えることにした。


「……阿比留さん、鴨って好きですか?」

「は?」

「あ、見るのがじゃないですよ。食べるんですよ。食べちゃう方!」


阿比留さんがポカンとしたから、公園の池で鴨が泳いでる姿でも想像したのかと思って訂正すると、阿比留さんは突然プッと吹き出した。


「なんだ、その強引な話題の変え方。唐突すぎるだろ」

「え、そうですか? へへ……」


ちょっと苦しかったか。

そう反省しながらも阿比留さんが笑ってくれたから、安心する。


「気ぃつかいだな、比奈子ちゃんは」


口調はいつものイヤミっぽかったけれど、私を見る目は今までにないくらい優しげで、思わず吸い込まれるように見とれてしまった。
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