甘え下手
「わた、私がその範疇に入らないのは、私に好きな人がいるからですか……?」

「なに、比奈子ちゃん。俺に遊ばれたいの?」


阿比留さんのからかうような声に、ぶるぶるっと思いきり頭を振った。

そうじゃなくて、そんな人じゃない阿比留さんをどこかに見つけようと必死になってしまう。


単にプライドが高いから、好きな男がいる女は相手にしないだけだなんて理由だとは思いたくない。


「……人には色んな価値観があるかもしれないですけど、でも」


モヤモヤした気持ちを抑えられなくて、私の口は勝手に余計なお世話と思われる言葉を口にし始めていた。


「真面目に恋愛した方がきっと、楽しいですよ?」


ピシリ、と空気が固まった音を聞いたような気がした。

アルコールでぼんやりとしてきた頭の隅で、余計なことを言ってしまったんだと自覚していたけれど、今更どうにもできなかった。


「真面目な恋ね」


阿比留さんがフッと馬鹿にしたように笑う。

初対面の、あの意地悪を言ってきたときと同じ冷たくて鋭い目。


「ただの現実逃避の片想いじゃん」
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