甘え下手
「じゃあ、こうしようか？」

「……何ですか」

「比奈子ちゃんが失恋したら、俺が身体で慰めてやるよ」

「……はぁ」


とりあえず、今夜の貞操の危機からは逃れられそうで、少しの安心から気の抜けた返事が口から漏れた。


「身体だけの温もりが恋しくなる夜だって、比奈子ちゃんにも絶対くるよ」

「自信満々に私が失恋する前提の話しないでください……」


阿比留さんが何にどこまで怒っているか分からないから、チラチラ顔色をうかがいながら、チビチビ日本酒を飲んだ。

いや、この気まずい雰囲気から逃れたくて、結構ぐびぐび飲んだ。


「約束な」


阿比留さんがそんなようなことを言った気もするけど、定かではない。


だけど私が言う『失恋』は、櫻井室長が結婚するときぐらいだもの。

現在、決まった恋人もいない室長にそんな未来が早々やってくるとも思えない。


だから他人事のような気持ちでその話題を流してしまった気がする。
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