甘え下手
その後は私が櫻井室長をどうやって誘惑するかの講義を延々と聞いていたと思う。
内容はなんとなくうろ覚えで、そんなんで上手くいくのかな……ぐらいに思っていたと思う。
記憶は全部ある。
だけどそれは後から思い返す自分で、リアルタイムでその時の自分に理性がどこまであったのかは分からない。
阿比留さんとお兄ちゃんがしゃべっているのを聞きながら段々といつもの自分が戻ってきて、気がつけば玄関のドアが後ろでバタリと閉まる音がして、私は玄関に一人で立っていた。
目の前には呆れ顔のお兄ちゃん。
「女が男の前で飲みすぎんなよ。アホか」
「……飲みすぎってほどじゃ」
ないか。
途中から水みたいな感覚だったもんな。
阿比留さん、家の中まで送ってくれたんだ。
紳士じゃん。
「酔って男に送られるとか、完全にアホだろ。そういうの鴨がネギしょって歩いてるって言うんだぞ」
「……上手い、座布団一枚」
鴨、食べてきただけにね。
だけどそんなことは露知らずのお兄ちゃんは、酔っ払いの戯言だと嫌な顔をした。
内容はなんとなくうろ覚えで、そんなんで上手くいくのかな……ぐらいに思っていたと思う。
記憶は全部ある。
だけどそれは後から思い返す自分で、リアルタイムでその時の自分に理性がどこまであったのかは分からない。
阿比留さんとお兄ちゃんがしゃべっているのを聞きながら段々といつもの自分が戻ってきて、気がつけば玄関のドアが後ろでバタリと閉まる音がして、私は玄関に一人で立っていた。
目の前には呆れ顔のお兄ちゃん。
「女が男の前で飲みすぎんなよ。アホか」
「……飲みすぎってほどじゃ」
ないか。
途中から水みたいな感覚だったもんな。
阿比留さん、家の中まで送ってくれたんだ。
紳士じゃん。
「酔って男に送られるとか、完全にアホだろ。そういうの鴨がネギしょって歩いてるって言うんだぞ」
「……上手い、座布団一枚」
鴨、食べてきただけにね。
だけどそんなことは露知らずのお兄ちゃんは、酔っ払いの戯言だと嫌な顔をした。