甘え下手
私も航太さんって呼んでいいのかな。

でもそんなの恋人同士のデートみたいで余計に緊張するー!!


「店さえ知ってれば先に入っててもらってよかったんだけど、ちょっと細い道の奥にあって分かりにくいからさ」

「ああ、確かに」

「え?」

「いえ、なんでもないです。いいです、一人で料亭で待つなんて緊張しますから」

「そっか。ちょっと歩くけど平気?」

「全然、大丈夫です!」


櫻井室長の後をちょこちょこ歩くと、私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。

紳士な気遣いが嬉しい。


ずっとこうして二人で歩いていられたらなあ……。


「なんか不思議な感じだな。比奈子ちゃんとは付き合い長いけど、こうして二人で歩くとか初めてだよな?」

「は、はい」

「会社の部下だからかな? なんかイケナイことしてる気分だ」


たいして罪悪感もなさそうに笑うのは、きっと櫻井室長になんの下心もないからだと思う。

下心満載の私なんて、同じこと思ったけれど口にできませんでしたよ。
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