甘え下手
「この日本酒、本当に飲みやすいですね。なんていう銘柄ですか?」

「ん? 上善如水(じょうぜんみずのごとし)っていうんだよ。名前の通り水みたいだけど、しっかりお酒だから。比奈子ちゃんそんなに強くないだろ?」

「えー、三、四杯なら大丈夫ですよ!」


だってこの前はちゃんと家まで歩けたし。

そんな実績があることは、やっぱり口に出しては言えないけれど。


――あれから阿比留さんには会っていない。


数日でグンと仲良くなった気がしていたけれど、よく考えたらお互いの連絡先すら知らなかった。

本当は家まで送ってもらったお礼を言わなければならないのだけど、偶然すれ違ったりもしていない。


「お酒といえば沙綾ちゃんもそんな強くないのに、この前ムチャな飲み方してたな」

「え……っと、そうでしたっけ」


沙綾は、次の日には何事もなかったかのように、朝から私の部屋に着て、新しいバッグを貸して欲しいと甘えてきた。

その日は女友達と買い物に行って、クリスマス限定コスメを私の分まで買ってきてくれた。


猫みたいに気まぐれなところがある子だから、阿比留さんのことも案外、引きずっていないのかもしれない。
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