甘え下手
「比奈子ちゃん、帰るよ」

「はい……」


この間阿比留さんと飲んだ時よりもさらに二杯飲んでみたけれど、帰るときにも私の記憶はしっかりとあった。

やっぱり私が酔いつぶれることはないらしい。


「ごちそうさまでした。鴨、美味しかったです」

「ハハ。楽しかったけど、接待の時はこんな飲んじゃダメだぞ?」


通り一遍のお礼を言って、頭を下げて席を立つ。

ああ、これで終わりなんだと悟ると、どうしようもない虚しさが自分を襲った。


結局、私、何もできてない。

今日も、自分の想いを伝える前に壁の高さを知って、逃げ出してしまった。


櫻井室長が会計をしてくれている間に手洗いを済ませて、お店の出口で合流した。

さすがにちょっと足元がおぼつかない。


「おいおい、大丈夫か」と櫻井室長が苦笑しながら腕をつかんで支えてくれた。

頭の中に同じ光景がフラッシュバックした。


「あれ、この間も……」
< 81 / 443 >

この作品をシェア

pagetop