甘え下手
***


「ホラ、あったかいお茶。飲んで」

「ありがとうございます……」


1LDKの広くも狭くもないマンション。

私は二人掛けのソファーに座って、マグカップに入れられた緑茶を飲んでいた。


ああ、落ち着く。

……じゃなくて。


ホントに阿比留さんの言う通りうまくいくもんなんだなあ……なんて、初めて入る櫻井室長の部屋を見渡しながら、そんなことをぼんやりと思っていた。

まあ、櫻井室長は私の口説き文句に落ちたわけじゃないけれど。


「帰りたくない」だなんて私が口にすると思わなかったのか、櫻井室長は相当驚いた表情をしていた。

だけど諭されたり、家に送り帰されたりしなかったのは、多分私がお兄ちゃんと喧嘩でもしたんじゃないかって思ってるんだと思う。


変なお酒の飲み方してたから。


そんな櫻井室長の優しさにつけこんでしまって申し訳なく思う気持ちももちろんあるけれど、私が一人の女として見られていないという現実は変わっていないのだけれど、それでも私は初めて見る櫻井室長のプライベートな空間に高揚していた。

櫻井室長が寝室の方へ入った隙を狙って、キョロキョロと部屋を見回す。
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