甘え下手
「今日、車だから食いメインな」

「俺、運転じゃねーし」

「おろすぞ、バカ。俺、焼肉食いたい」

「またかよ。こないだもう肉なんて食いたくないっつってなかったか?」

「もう1ヶ月経ってんじゃん! つかお前が帰るから、あんときの支払いマジキツかったし!」


ああ、俺がチューハイぶっかけられた日な。


「……結局お前が払ったの?」

「いや、比奈子ちゃんとワリカンだったけど、それでもキツかったんだって」

「マジかよ。女に払わせんなよ」

「えー。女っつーか、比奈子ちゃんじゃん」


仁の中で比奈子ちゃんは女ってくくりじゃないわけね。

あの子ってつくづく損な立ち位置だよなー。


「かわいそうに」

「何、オマエ。俺を悪者扱いすんの!? 大体、お前が必要以上に比奈子ちゃんに意地悪言うからああなったんだろ」

「……忘れた」

「どうせあれだろ。比奈子ちゃんに自分重ねてイラついてたんだろ」


車は勝手に仁行きつけの焼き肉屋に向かってる。

俺は窓の外を眺めたまま、もう一度「忘れた」と同じセリフを繰り返した。
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