密の味~一度あなたに触れてみたい~
「混み過ぎだろ、おい……」
主任のうんざりした声が聞こえる。
俺も同感だし。
今日はいつも以上に車内がひでぇ。
どうやら人身事故の影響らしい。
「凛さん、大丈夫?」
「うん。なんとか……」
主任と俺に挟まれ、サンドイッチ状態の凛さん。
後ろから見てる限り。
全然大丈夫そうじゃねぇ。
なのに俺は――。
違う事にばかり意識が向いている。
凛さんの。
匂いとか体温とか感触、とか。
直に感じて胸が騒ぐ。
それと同時に。
もう会えない寂しさとか、焦りとか。
そういう切ないモンが色々交じり合って。
心がグチャグチャだった。