【短】Black Coffee
「…本当にこんなんでいいの?」
と、彼は何回も私に尋ねる。
何回尋ねられても、私は笑顔で頷く。
「それだけでいいの」
彼は諦めたように肩をすくめる。
私が彼にして欲しいこと。
それは、『私の為にコーヒーを淹れてほしい』ということ。
それ以上は望まない。
いつも彼は私にコーヒーを淹れてくれる。
けど、このお店で彼が淹れたコーヒーは飲んだことがなかった。
甘くなくていい。いつも彼が淹れてくれるコーヒーでいい。
特別なことなんて望まない。
ただ、私は彼が淹れるコーヒーをこの場所で飲んでみたかった。