撮りとめた愛の色
新緑の中の紺青
一.
ふわりと風が木の葉を遊ぶように柔らかく吹いて、それに混じるように私の毛先も泳ぐように靡く。
今日はいい天気だと和みながら古めかしい見た目通りの、いかにも年季の入っていそうな木造の扉をカラカラと開けた。
入ってすぐの段差で靴を脱いで廊下へと出る。靴は他に1足。まだ早い時間の今はそれが当たり前のことで、他に誰かの靴が置いてあるのを私は見たことがない。
更にそこを左に曲がれば、仕切りの襖は開けっ放しにされたまま、目的の人物が寝転ぶ姿があった。
「…何してるんです、せんせ」
思わずぱちりと瞬いて、答えなんて見れば分かるような問いをかけていた。
珍しく歩いていた途中の出迎えがないものだから、てっきり何か集中しているのかと思えば。
そう内心で溢しながら苦笑を浮かべ、ゆるりと起き上がる彼を見た。
「嗚呼、来てたのか。随分静かに歩くものだから気が付かなかった」
彼の着ている和服の衣擦れの音《ね》に合わせて零れ落ちてくる髪と少し掠れた声がやけに色っぽい。なんとなく見てはいけないような背徳感に、彼から視線を反らした。
「……あー。えっと、寝ていたの?」
「ん?寝転んでいただけだよ。寝てしまっては折角遊びに来てくれた子も暇になってしまうだろうから」
「別に構わなかったのに」
「なら、このまま不貞腐れて寝てしまおうか」
笑い混じりに返した言葉に彼は態《わざ》とらしく口にする。慣れたようにそれを軽く流すと、隅に荷物と手にしていた一眼レフを置いて畳まれていた折り畳み式の長机を移動させる。
「ほら、せんせ。そんなこと言ってるとすぐに子供達が来ますよ」
長机の脚を起こし、組み立てながら諭せば彼は肩を竦ませたような仕草の後にようやく動き出した。