撮りとめた愛の色
木々に咲く薄紅
四.
蒸し暑いと言うにはまだ少し早いけれど着実に気温は上がり、夏が近付いて来ていることを知らせ始めていた。
とはいえ、
「───あったかくなってきたはずなのに、どうしてここは暑さを感じないのかしらね」
「先生がマイナスイオンでも出してんじゃねぇの?」
「こらこら、ふたりとも私を何だと思っているんだ」
声を上げたのはいつものように長机を組み立てながらふと呟いた私に賛同する汰人と、呆れたようにそれを聞く彼だ。今日の着物は淡めの明るい緑。彼は草木染めがどうのと語っていたが長くなりそうだったので途中から聞いていない。
要はお気に入りだとでも言えばいいだろうか。
「そもそも、それがあるからといって涼しくなるものなのかい?」
「いや、そんな具体的な話されてもな」
「良く分からないけれど、名前だけ見れば涼しそうじゃない?」
「まぁここは建物の裏手側にあるし、だから比較的涼しいんじゃないかな」
「ふぅん。そういやその分冬は寒かったよな」
一番先に長机を組み立て終えた汰人は奥へと消えるとグラスをみっつ、手にしながら戻ってきた。
「せんせってそんな格好だし、余計に寒いでしょう?」
言いながら組み立てたそれを起こし、汰人からグラスをひとつ受け取る。香りが良い中に入っている蜂蜜を薄めたような色の液体は柚子茶だろう。
爽やかな後味に顔を綻ばせながら彼へ視線を滑らせれば、彼は柚子茶を物珍しそうに見つめながら返事を返した。