嘘つきなキミ


「じゃ。お疲れ」
「あ、ああ…」


いつものように最後まで残っていた楓とケンは、店の階段を昇ったところで言葉を交わして別れた。

お互いに家路を歩き始めたかと思えばケンが足を止め、密かに振り向く。


「……」


モヤモヤと何かを抱えたまま、無意識に遠くなっていく楓を見ていた。


「…仲、いーのね?」
「?!」
「それとも、それ以上の想いでもあるのかなー」


ひょっこりと姿を現して冷やかし半分、探りを半分というようなものいいをしてきたのはまたもや絵理奈だ。

ケンは絵理奈の存在を認識したと同時に辺りを気に掛けた。
その様子を見て、絵理奈が笑う。


「…誰もいないよ? 絵理奈だけ!」
「え、あ…」
「―――いると思ったんでしょ? リュウが」


絵理奈は目を伏せて、キラキラとしている唇を動かし、静かに微笑む。
ケンは先程の、店では見せなかったその妖艶な雰囲気の絵理奈に目を奪われる。


「べ、別に…。ていうか、ここで何して…」
「ケンを待ってみたんだけど?」
「お、オレを⁈ なんで……」
「なんとなぁく。ね? 飲みに行こ! モチロン奢るから」
「や、そーゆう問題じゃ…!」
「―――まさか、本当に“そっち”の人だったり?」


するりと腕を絡ませて擦り寄るように絵理奈が密着して、楓が去った方向を見ながら言った。
ケンは自分の腕に押し当てられている柔らかい感触と、香水の匂い―――そして上目遣いで言われたそのひとことに動揺する。

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