嘘つきなキミ
「ここ、絵理奈が一人でよく来るお店」
あれからべったりと絡ませていた腕をどうにか解放して貰ったケンは、そのまま絵理奈について一軒の店に入った。
カウンター席についた絵理奈が、入口付近に突っ立ったままのケンを見て目を細めて笑う。
「なに? そんなに絵理奈が怖い? 襲ったりなんかしないよ?」
「……」
無邪気そうに笑って言う絵理奈の隣にケンは無言で腰を掛けた。
その様子を見届けると、シャラっとブレスレットをカウンターの光に反射させるように頬杖をついて絵理奈はケンを見て言った。
「…でも、もしかしたら襲っちゃうかも?」
クスリと笑う絵理奈を見て、ケンは冷静に対応した。
「…一体なんの目的ですか」
その質問に、一瞬だけ驚いた顔を見せた絵理奈だったが、すぐにまた元の表情に戻して答える。
「ただの、気まぐれ」
「…余裕のある人しか言えなさそうなことッスね」
「だって、他に方法知らないもの」
絵理奈はその言葉と同時に、ケンの手に自分の手を重ねた。
「…どう、気を引いていいかわかんないし、どうしたら絵理奈(自分)だけを見てもらえるのかもわかんない」
初めて見る、しおらしい姿にケンは手を振り払うことも、何も言うことも出来ずにいた。
「お金でしか、繋ぎとめることが出来ない…」
「そんなの―――」
「“間違ってる”? じゃあ、ケンは絵理奈を見てくれる?」
潤んだ目を向けられるが、ケンは戸惑うばかり。
そんなケンの様子を小さく可愛く笑って絵理奈は「とりあえず、飲も」と、バーテンダーに合図をした。