嘘つきなキミ

それから数時間―――

初めこそ警戒していたケンも、アルコールが入ったために、警戒心も薄れていた。
絵理奈と普通に並んで、新しく出されたグラスに手を掛ける。


「リュウになんか、時間とお金費やすの、オレは勿体無いし無駄だと思う!」
「えー……そっかぁ。そう思う?」
「ちゃんと、カレシ作ったら?」
「じゃ、ケンがなってくれる?」


ケンはドキッとする絵理奈の言葉を聞いて、口をつけようと持ち上げたグラスの手を止めた。
絵理奈を見ると、本気なのかどうか判断出来ない。そんな“読めない”視線を向けている。

少しの沈黙のあと、やっとケンが口を開いた。


「――だから、“ちゃんと”って今言っただろ…」
「……ほんと、マジメよね。ケンは」


ふっ、と笑って絵理奈はまた元の体勢に戻る。
そして煙草をまた取り出そうとしたときに絵理奈の携帯が鳴った。


「あ……デンワ。はいー?」


絵理奈はその着信に、煙草を中断することなく、肩で携帯を挟みながら火を点けた。
ケンは横目でちらっと絵理奈を見るだけで、あとは興味なさそうに酒を飲む。


(あー…かなり酔っ払ってんな、オレ。じゃなきゃ、こんな女とこうして飲んでなんかねぇよな)


ぼんやりとそんなことを思いながらも、ケンは席を立とうとはせずに、続けて酒を注文する。


「えぇー?いいけどぉ……」


(……マジ苦手なタイプ。彼女とかには出来ねぇって。ああ。シュウは今頃家着いたんかな――ああいうタイプは、結構好きなんだけどな…)


猫撫で声で誰かと話し続ける絵理奈には、やはり興味はなく。会話の内容ももちろん聞き耳を立てたりなどする気もない。

そして、ふと楓のことが浮かぶ。

軽くなさそうで、話しやすく、自分の身の上話も上辺だけでなく聞いてくれる。
柔らかな雰囲気を纏う“シュウ”は、今やケンにとって大部分の心を占めていた。


(待て待て!『好き』っつったって、『人間性』の話だ!いくら酒入ってるからって、どんな思考してんだよオレは!)


ケンは思い切り頭を横に振る。
それでも楓の顔が脳裏にチラついた。


「ぷ。なーにしてるの?」
「…なんでもねぇ」
「ふぅん。ねぇ、ケン」
「あ?」


電話が終わった絵理奈が、ケンの動きをみて笑いながら、再び距離を縮める。
そして指に煙草を挟めて頬杖をつき、ケンに言う。


「明日、時間くれない?」


紫煙がゆっくりと上がって行くのをケンは虚ろな意識で眺めていた。






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