嘘つきなキミ


ケンと別れてすぐに、楓は店に引き返していた。


(店の鍵、ケンから預かっといて良かった)


楓とケンは堂本からの信頼もあり、鍵の管理も任されていた。
その鍵を今日は楓が引き受けていたのだが、それを楓は手に握り、店への道を急ぎ歩く。


(いつ、無くしたんだろう。閉店してから確かに確認したはずなのに)


楓は必死に記憶を遡って、焦りながら小走りになる。

そして、それをいつ無くしたのかわからないまま、視界に電気の消えた店の看板が入ってきた。

その看板を過ぎれば、いつもの黒い扉に続く階段がある。
楓はその階段の入り口しか見えていなかった。


「っ…!」


しかし、楓の気持ちとは裏腹に、あと少しの距離でそれを阻まれる。
あまりに急なことで、声もあげられなかったが楓にとって、それが幸いした。


「よぉ」


楓の肩を掴んで抑えたのは――


「り、リュウ! …さん」


自分の肩に置かれた手に視線を注ぎ、一瞬止まった心臓がまた動くのと同時にその手の主を見上げる。
そこには、なぜかリュウの姿があった。


「どうしてここに――…」
「『どうして』? 知りたいか?」
「――――!」


ニヤッと笑うリュウに、楓は嫌な予感がする。
『まさか』――と思ったその時、その予感が的中した。


「コレ。取りにくるかと思って」


そういって、店の看板に寄りかかる。そして、リュウはポケットから無造作に何かを取り出すと、空にかざすよう見た。


「か、返して下さい!」


身長差から、楓はまるで子供のように、届かないリュウの手に自分の手を伸ばして言った。


「よっぽど大事そうにしてたもんなぁ?」


なぜ、そんなことを知っているのか。どこかでなにか見られたのか。

色々と考えていると、ふと思い出した。
ロッカー室で、わざとじゃないかと思うように、リュウの方から自分に近づき、軽くぶつかって行ったことを。


(まさか、あの時私のポケットから――?!)


そんな疑惑を頭に、楓はなるべく感情を出さないように言う。


「……はい。だから返して下さい」
「ふーん」


リュウの顔から笑みが消え、何を考えているのか全く読めなくなる。
そして、その空にかざしていた手をゆっくりと降ろすのを見て、楓は我慢できずにまた手を伸ばした。


「おっと」


リュウがその楓の手を交わす。
すると、楓はその手の中のものに夢中になりすぎて、前傾姿勢だったことからバランスを崩してリュウへとぶつかった。


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