嘘つきなキミ

ドン、と楓がリュウの胸によろけると、反射的にリュウが楓の体を支えた。
その触れた手から、また逃れるように楓はすぐに身を引いた。

が、リュウは何かを感じたように、少し驚いたような顔をして言った。


「‼ お前、ほんとにオト――――いや。なんでもない…」
「――とにかく、それ。返して欲しいんですけど」
「ああ。やっぱ、余程大事なモンなんだな――オトコから貰ったか?」


未だに返してはくれないリュウの、最後の言葉に楓は絶句する。


(――まさか! 私が女ってこと、知って…?)


楓はごくりと唾を飲む。

リュウの出方を鋭い視線を向けて待っていた。
ここで、怯んでボロを自ら出してはいけない。
そう考えて、必死で冷静さを保って、リュウを睨む。


「YESともNOとも言わない、か」


クッと意味深な笑いを漏らして楓の顎に手を添える。
そして顔を無理やり上げられると、目の前にリュウの顔が降りてきた。


「これ。返してやる」
「……」
「ただし、明日、いつもより30分早く出勤してこい」


街の灯りも殆ど消えた暗闇で、鈍く光るリュウの目を見つめる。


「そん時に、返してやるよ」


リュウはそういうと、楽しそうに笑って、そこから立ち去って行った。


「……最悪だ」


力が抜けた楓は、片手で顔を覆いながらぽつりと漏らす。


(――高確率で、リュウは怪しんでいる。明日、何を仕掛けてくるのかわからないけど…でも“あれ”は――あの圭輔から貰ったものは、諦めるわけにはいかない)


ゆっくりと手を外し、リュウが歩き、居なくなった道を見る。


(堂本さんに相談する? でもそれこそ、『もう来なくていい』って言われてしまうかも)


壁にもたれ、ずるずるとしゃがみこみ、楓は頭を抱える。


(――明日の開店準備の30分前、か。誰か出勤して来てくれるかもしれない。けど、ケンに少しだけでいいから早く来るよう上手くメールしようか。そうしたら、ほぼ確実にリュウと二人きりになる時間を半分にすることが出来る…)


苦肉の策で、楓はそう考えつき、ケンに一通のメールを入れた。

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