嘘つきなキミ
ホストクラブ。
それは女性を相手にして、お金を稼ぐ仕事。
お酒を飲んで、注いで、褒めちぎる。
思わせぶりな言葉を幾つも吐いて、客を喜ばせて、また来店してもらう。
その繰り返し―――。
女である自分が、女性を口説くなんてことあり得ない。
けど、男を誘惑するわけでもない。近寄ってくるであろう相手は全て女性。
従業員はホスト(おとこ)だが、触れられることも、言い寄られることもする筈がない。
なぜなら“男”として働くのだから。
そんな答えに行きついて、楓は気持ちが傾き始めていた。
リスクがあるとすれば、“女”だということを隠し通せるかということ。
立ち止まった横に、商店のガラスに自分が映し出されていた。
楓はそこに居る“自分”を客観的に見る。
顔立ちは、多分悪くはない筈。
今まで女性にしては高すぎて嫌だった背丈も、こういう事態になると武器になる。
肉づきも、悲しいくらいに貧相で…でもそれもまた女らしさをカバーするのにはピッタリだった。
“覚悟”―――死んだ方がマシ。それを、“死ぬよりマシ”と置き換えてすれば出来ないことではない。
都合のいい奴と言われるのは分かってる。
それでも、今やこの千載一遇とも言えるチャンスを、楓は掴もうとしていた。
そして向かう先は一度圭輔にかけた公衆電話。
そこで意を決して名刺に記載されていた携帯へと電話を掛けた。
『プルルルルル…プルルルルル…』
(決意が揺るがないうちに―――と電話を勢いで掛けてしまったけど、こういう職業の人って今の時間、何してるんだろう。まずかったかな…)
耳元で鳴るコールを聞きながら、楓はその受話器を戻そうか躊躇する。
すると、プツッと規則的に聞こえていたコール音が途切れた。