嘘つきなキミ
『もしもし』
迷ってる間に繋がった電話は思いの外低い声が聞こえてきて、楓は言葉に詰まった。
『…暇人のイタズラなら切るぞ』
「あっ…違…!」
『……なんだ、楓か?』
少しだけ優しい口調に戻って名前を言い当てられる。
それだけなのに、なぜかホッとしたような気持ちになって…。
「あ、あの…」
『ハラ決まったか?』
「……はい」
『…じゃあ今日そっち行くから待っとけ。後でな』
手短に、必要事項だけを話し終えるとすぐに電話を切られてしまった。
今度はツー…っという音を聞きながら大きく息を吐いた。
(電話だと、少し声が違って聞こえたな…。でも堂本さんは私ってすぐわかったんだ)
名刺を見ながらアパートへの道のりを歩く。
とりあえず、雨風が凌げて、仕事が出来そうで。その安堵感からか、楓のお腹が鳴った。
ポケットにある少しの財産。
それを確認して小さな商店に入り、おにぎりをひとつ買ってアパートへと戻った。