嘘つきなキミ
*
『会いに行く。お前といて、そう決めた』
堂本と別れてから、楓はさっきの言葉をリフレインする。
鬱陶しいかもしれないけど、堂本のこの決断を最後まで見届けたい。
そうしたら、この恋に終止符が打てると楓は思うから。
アパート前で足を揃えると、空を仰ぐように建物を改めて見た。
あの日拾われて、介抱された堂本のアパート。
この部屋に帰ることが出来るのは、あと何回だろう。
そんなことを考えて、楓はしばらくそのままアパートに入ることをしないでいた。
静寂の中、バイブ音が小さく響いた。
楓はその振動で我に返ると、ポケットから携帯を取り出す。
暗闇で光るディスプレイがやけに眩しい。
目を細めて確認すると、それは今日帰って行った圭輔の名だった。
『もしもし。姉ちゃん?』
「うん。圭輔、起きてたの?」
『……なんか、まだ興奮状態なのか、眠くないんだ』
楓はアパートに背を向け、ぽつんとついている街灯を見上げて圭輔の声を聞いていた。
『あの人……堂本さん。なんか言ってた?』
「え……? 特に……あ、このアパート、しばらく使っていいとは言ってくれてたかな」
『そう……』
「なんか色々と……ごめんね」
静かなのは、住宅街だけじゃなく、楓の心の中も同じ。
改めて楓は圭輔に謝ると、圭輔もまた、静かに答えた。
『オレは結局なんにもしてないから。お礼ならあの人たちに言えばいい』
「――うん。でも、圭輔もずっと支えてくれたから」
『そうだね。ずっと……ずっと、“オレだけが姉ちゃんを守れるんだ”って思ってた』
街灯の明かりから月明かりへと視線を映す。
ぼんやりとした月から出ている光が、なぜだか温かく感じる。
こんなふうに、いつも穏やかに、温かく支えてくれていた。
そう、楓は思う。
『でも、もう違うみたいだね』
「え……?」
『オレはいつまででもそうしたかったけど、姉ちゃんは一人でちゃんと歩き出したから。だから、オレも自分のこと、考えるよ』
姉離れを決断した圭輔の宣言を聞くと、弟離れ出来てなかったのは自分の方なのだな、と改めて実感する。
明らかに寂しい思いになった楓は、何も答えることが出来なかった。
『会いに行く。お前といて、そう決めた』
堂本と別れてから、楓はさっきの言葉をリフレインする。
鬱陶しいかもしれないけど、堂本のこの決断を最後まで見届けたい。
そうしたら、この恋に終止符が打てると楓は思うから。
アパート前で足を揃えると、空を仰ぐように建物を改めて見た。
あの日拾われて、介抱された堂本のアパート。
この部屋に帰ることが出来るのは、あと何回だろう。
そんなことを考えて、楓はしばらくそのままアパートに入ることをしないでいた。
静寂の中、バイブ音が小さく響いた。
楓はその振動で我に返ると、ポケットから携帯を取り出す。
暗闇で光るディスプレイがやけに眩しい。
目を細めて確認すると、それは今日帰って行った圭輔の名だった。
『もしもし。姉ちゃん?』
「うん。圭輔、起きてたの?」
『……なんか、まだ興奮状態なのか、眠くないんだ』
楓はアパートに背を向け、ぽつんとついている街灯を見上げて圭輔の声を聞いていた。
『あの人……堂本さん。なんか言ってた?』
「え……? 特に……あ、このアパート、しばらく使っていいとは言ってくれてたかな」
『そう……』
「なんか色々と……ごめんね」
静かなのは、住宅街だけじゃなく、楓の心の中も同じ。
改めて楓は圭輔に謝ると、圭輔もまた、静かに答えた。
『オレは結局なんにもしてないから。お礼ならあの人たちに言えばいい』
「――うん。でも、圭輔もずっと支えてくれたから」
『そうだね。ずっと……ずっと、“オレだけが姉ちゃんを守れるんだ”って思ってた』
街灯の明かりから月明かりへと視線を映す。
ぼんやりとした月から出ている光が、なぜだか温かく感じる。
こんなふうに、いつも穏やかに、温かく支えてくれていた。
そう、楓は思う。
『でも、もう違うみたいだね』
「え……?」
『オレはいつまででもそうしたかったけど、姉ちゃんは一人でちゃんと歩き出したから。だから、オレも自分のこと、考えるよ』
姉離れを決断した圭輔の宣言を聞くと、弟離れ出来てなかったのは自分の方なのだな、と改めて実感する。
明らかに寂しい思いになった楓は、何も答えることが出来なかった。