嘘つきなキミ
菫
*
自宅マンションの駐車場に車を停めて、もうすぐ1時間。
それでも堂本は降りようとはせずに、ハンドルに両腕を掛け、そこに顔を乗せてただ一点を見つめていた。
エンジンを切った車内は、一人考え事をするのにうってつけだった。
駐車場の僅かな電気で、銀色に光る腕時計を見た。
時刻は午前3時。
手には一枚の小さな紙。
堂本は体を起こすと、おもむろにポケットから携帯を取り出した。
そして気持ちが変わらないうちに、とその紙と携帯を交互に見ながら操作して耳にあてる。
「……っは。この歳で、いまさら緊張するなんて……」
自分に苦笑して目を閉じる。
(時間が悪かったか……それとも、知らない番号からなんて、出るわけないか……)
7コール聞いたところでそう思い、耳から離そうとした時だった。
『……もしもし?』
スピーカーから聞こえたその声に、今まで十数年かけて忘れようとしてきたもの全てが一瞬で蘇る。
『…………由樹?』
いつもは用意周到にする性格のはずなのに、今回ばかりはなにも考えていなかった。
ただ勢いと、根底にある想いだけで動いていたから。
「……元気か?」
ようやく声が出ても、体の大きさからは想像できないくらいに掠れて細い声。
『うん……元気。由樹は?』
あれだけ焦がれていた菫の声が鼓膜を揺らす。
その耳がものすごく熱を感じて脈打つ錯覚まで起こっていた。
自分のうるさい心音までもが邪魔だと感じて、懸命に受話器からの菫の声だけを拾おうと集中する。
「おれも元気だ」
もっと伝えたいことがある。
聞きたいことも、聞いて欲しいことも、数えきれないくらいに。
だけど何から話せばいいのかわからない。
せっかくのこの時間を、ほとんどが沈黙で過ぎていく。
『ねぇ、由樹』
「……ん?」
『今度会おうか?』
自宅マンションの駐車場に車を停めて、もうすぐ1時間。
それでも堂本は降りようとはせずに、ハンドルに両腕を掛け、そこに顔を乗せてただ一点を見つめていた。
エンジンを切った車内は、一人考え事をするのにうってつけだった。
駐車場の僅かな電気で、銀色に光る腕時計を見た。
時刻は午前3時。
手には一枚の小さな紙。
堂本は体を起こすと、おもむろにポケットから携帯を取り出した。
そして気持ちが変わらないうちに、とその紙と携帯を交互に見ながら操作して耳にあてる。
「……っは。この歳で、いまさら緊張するなんて……」
自分に苦笑して目を閉じる。
(時間が悪かったか……それとも、知らない番号からなんて、出るわけないか……)
7コール聞いたところでそう思い、耳から離そうとした時だった。
『……もしもし?』
スピーカーから聞こえたその声に、今まで十数年かけて忘れようとしてきたもの全てが一瞬で蘇る。
『…………由樹?』
いつもは用意周到にする性格のはずなのに、今回ばかりはなにも考えていなかった。
ただ勢いと、根底にある想いだけで動いていたから。
「……元気か?」
ようやく声が出ても、体の大きさからは想像できないくらいに掠れて細い声。
『うん……元気。由樹は?』
あれだけ焦がれていた菫の声が鼓膜を揺らす。
その耳がものすごく熱を感じて脈打つ錯覚まで起こっていた。
自分のうるさい心音までもが邪魔だと感じて、懸命に受話器からの菫の声だけを拾おうと集中する。
「おれも元気だ」
もっと伝えたいことがある。
聞きたいことも、聞いて欲しいことも、数えきれないくらいに。
だけど何から話せばいいのかわからない。
せっかくのこの時間を、ほとんどが沈黙で過ぎていく。
『ねぇ、由樹』
「……ん?」
『今度会おうか?』