嘘つきなキミ



「ご来店ありがとうございます」


数時間前とは打って変わって店内は明るく賑やかな空間になっていた。
その変わりぶりに楓は初め、戸惑ってはいたがそれを表に出さずに黙々と仕事をしていた。

今の楓の仕事は主にヘルプのヘルプ。

指名率の高いレンは、複数の客を相手にすることが多々ある。
席を外したあとの場繋ぎ…簡単に言えばそんなような補佐をしていた。


「レン、まだ戻ってこないの〜?」


一人残された客が不満そうな口ぶりで楓と一緒にヘルプについていた男に漏らした。


「申し訳ありません。只今、呼び戻しますので」
「ほんと、早くして欲しいわ。レンに会いに来てるのよ?」
「承知いたしました」


あからさまな態度にも関わらず、少しも嫌な顔を見せずに対応するホストに楓は感心した。


「おい。お前、レンさんのとこちょっと行って来い」


そう言われた楓はハッとして、「はい」と返事をしてレンの居る席へと向かおうとした。


「ね。君、新人?」
「え?」


立ちあがった楓を見上げる客は、足を組み直してにこりと笑った。


「凄い好みのカオ。シュウくん…だっけ? レンが居ない日はシュウくんにしようかなぁ」
「あ……」


甘えた声を出す女性に、楓はどう対応していいかわからずに戸惑った。
あまりに長く沈黙したのでヘルプのホストがフォローを入れる。


「コイツ、ホントのホントーのド新人なんで! すみません! 感じ悪くて…」
「そんな感じよねぇ。でも別に悪い気なんかしないわ」
「そう、ですか…」


客には隙を見せないそのホストも、楓に向かっての表情は違ったもので。
その刺さる視線が痛い楓は会釈をしてレンの席へと急いだ。


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