嘘つきなキミ
『これこれ! さっき見つけたんだけどさ。姉ちゃんの母さんが書いたっぽい手紙なんだ』
「――お母さんの、手紙……?」
『うん。オレは直接姉ちゃんの母さん知らないし、勝手に中見ること出来ないから。姉ちゃんに渡そうかなって』
「なんだろう……それ、私宛なのかな?」
『ちょっと待って』
楓は、ちょうど亡き母を思っていたこのタイミングですごい偶然だな、と思った。
すると「あ」と圭輔の声がした。
「なに?」
『……姉ちゃん宛じゃ、ない……」
「ふーん。まぁ、わざわざ娘に手紙なんて、考えにくかったしね。
それで、誰に送るつもりだったんだろう?」
駅まで半分の距離まで歩いたときに、そう聞いた。
なかなか圭輔からの応答がないので、楓は不審に思って口を開く。
「圭輔? 聞こえてる?」
『……聞こえてるよ。いや、なんか男の人の名前だったから……』
正信が何度も言ってきてた。
“本当の父親は他のヤツだ”“あいつはただの男好きだ”
あんな父親の言うことなんか信じられなくて、そのまま聞き流してきた。
ある意味、正信が自分の父親ではないのなら、それはそれでせいせいする、とも考えたものだ。
しかしいざ、男宛に手紙などと聞けば――なんだかざわざわと胸が騒ぐ。
でも手紙なんて、友人にも書くだろうし、親戚や勤め先の関係でも何か送るかもしれない。
そんなふうに考えて、楓は圭輔になるべくいつもどおりの声で言う。
「ふーん、お母さんの親戚とか同級生かな? なんて人?」
そもそも、大事な手紙ならば、とっくに送っているだろう。
それを出しそびれるほどの手紙と思えば、何も深く考えることではない。
だけどなぜ、こんなに胸がざわつくのだろう。
ドキドキとしながら、耳元の圭輔の答えを待つ。
そして圭輔の言葉に、ついに楓は足を止めた。
『星見洋人って書いてるけど――」