嘘つきなキミ


「どういうことだ」


ガチャリとドアが開いたかと思えば、同時にそんな声が聞こえてきた。

ちょうどドアを開けようとしていた一人の女性が、ちらりと振り返り、そう言われた洋人を見る。


「ああ、大丈夫。彼は知り合いだから。お疲れ様」
「……お先に失礼します」


ペコっと頭を下げた女性とすれ違いで部屋に入る。

パタン、とドアが閉まったのを確認すると、洋人は手元の書類をファイルに綴じながら言った。


「彼女は優秀なアシスタント。結構長らく働いて貰っててね。で、なにが『どういうこと』なんだ? 由樹」


長い脚でつかつかと洋人のデスクまで歩み寄る。
そのデスクに片手をついて言った。


「親父が“知り合い”だと言っていた女――成宮桜って聞いた」
「……もう菫さんに会いに行ったのか」
「……それは今どうでもいい。成宮桜と親父ってどんな関係だったんだ? クライアントってだけじゃないんじゃないのか?」


問い詰める堂本は真剣だ。
洋人はそれに応えるように、ひとつ息を吐いて真面目な顔になる。


「それこそどうでもいい話じゃないのか? 仮になにかあったとしても、お前と菫さんの関係はなにも変わらないはずだぞ?」
「……なにかあったのか……」
「どんないいわけがあったとしても、結果、お前や孝子を裏切る形になったことには変わらない……それについては謝る。すまない」
「デキてたのか」


デスクに置いていた手を握り、堂本が静かに言った。
その様子を洋人は目を背けずに、真っ直ぐと向き合っていた。


「今になって、私の離婚の原因が気になって、責めに来たっていうのか?」


なにを言われても受け入れる。
そんな表情をして洋人は言う。

堂本はおとしていた視線を上げ、洋人を見た。


別にいまさら離婚を責める気も、なにか訴えようとも思っていない。

ただ、成宮桜と男女の関係だとしたら。
楓と言う存在が、自分の妹ということになる。

もしもそうならば、自分を『好き』と言っていた楓は傷つくことになるだろう。

たとえ自分に楓の気持ちを受け入れるつもりはなくても。その事実を知ってしまったら、せっかく上を向いて歩こうとしている楓の足を引っ張る感情になりうる。

それになにより、堂本自身も菫に似た楓を、妹と受け入れることに抵抗があった。


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