嘘つきなキミ

「失礼します。あの、あちらの方が…」


入りづらい雰囲気だが、行かない訳にはいかない。
盛り上がる席で静かに耳打ちをすると、レンは微笑んで隣の客にフォローをして立ちあがる。

レンの後ろをついて行く途中に、今、店内で一番盛り上がっているであろう席に目が行った。


「3番、コール入りまーす!」


誰がそんなことを、周りのテーブルにも聞かせるように声を張り上げたかと思えば、その場にわらわらとホストが集まる。


「「はい! はい! はい! はい!」」


そして掛け声を合わせて祭り騒ぎ。
そんな光景に圧倒されて、後ろの方で楓は様子を見ていた。


「マサキさんのテーブルでシャンパン入ったんだよ」


まだ覚えていない男に話し掛けられた。
楓は一歩だけその男から離れて顔をしかめて聞き返す。


「シャンパン…?」
「そ! 今は7万くらいのやつかなー。締め日近いからマサキさん追い込み掛けてんだよ」
「マサキ、さん…」
「うちのNo.2」


そう説明されて、人混みの隙間からマサキという人間を探してみた。

ちょうどコールが一区切りついたようで、シャンパンをボトルごと口につけて傾けてる所だった。

まだ話した事もないし、薄暗い中での観察くらいじゃわかることは少ない。

楓の目に映った“マサキ”とは、男っぽい明るめの短髪容姿に、目立つ存在、そして目つきが鋭く、萎縮してしまいそう―――そんな印象を受けた。


(ホストって一口に言っても……)

「お前が今いる、レンさんとはタイプ違うよな」
「……」
「だから客が割れるんだよなーちゃんと」


楓の心の声の続きを男がぺらぺらと話していると、シャンパンの騒ぎはひと段落ついたらしく、またそれぞれ持ち場に戻って行った。


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