嘘つきなキミ
(――堂本さんに、少し似てる)
楓の第一印象はそんなだった。
同時に、洋人も同じような顔をして楓に向けていた。
「……きみが、桜さんの」
「……はい。成宮楓です。あなたが星見洋人さん、ですね」
「なぜ私の名前を?」
洋人の質問に楓は無言で歩み寄り、手にしていた手紙を、すっと差し出した。
楓の容姿や、自分の元に来たことに驚いたままの洋人は、目を見開いたままそのどこにでもある、白い封筒を受け取った。
宛名には、間違いなく【星見洋人様】と記されている。
未開封の封筒を裏返すと、左下に遠慮がちに書かれていた名前が【成宮桜】となっていた。
「これは……!」
「いつのものかはわかりません。つい最近、弟がそれをみつけたようで」
洋人がそう説明する楓を動揺した目で見ると、楓も黙って洋人を見つめ返していた。
視線を手紙にもう一度落とし、洋人はそれを急いて開封した。
3人が見守る中で、洋人は便箋の文字を目で走らせる。
たった一枚の手紙。
そこになにが綴られているかは、今読んでいる洋人と、過去にそれを書いた桜本人にしかわからない。
洋人が読み終えたであろうときに、楓が静かに問う。
「教えて欲しいんです。あなたはお母さんと、どんな関係だったんでしょうか。……もしかしたら――――」
楓はそう言って、洋人からその隣の堂本に視線を移す。
その視線の意味を堂本は察して動けなかった。
「……どうしてそんなことを?」
洋人の質問返しに楓は一瞬言葉を飲んだ。
すると、楓を守るように堂本が口火を切る。
「具体的理由なんて、仕事でもないんだから別に構わないだろ。第一、娘が母親のことを聞いてなにが悪いんだ」
「いや……別に『悪い』だなんて思ってないさ……」
「じゃあ勿体ぶらねぇで、言えよ」
「――――ああ、そういうことか……」
矢継ぎ早に畳み掛ける、堂本の僅かな感情の変化を捉えて、洋人は納得したように受け答えた。
「私と桜が関係していたら――由樹と楓さんが異母兄妹になることを懸念して?」
自分の予想に、YesともNoとも言わない堂本を見た後、今度は楓を瞳に映した。
緊張し、強張った表情の楓を洋人が笑う。
「警戒心が強い、とでも言うのかな。それとも得体の知れない私が怖いかい?」
そうして「ふっ」と息を漏らして笑った洋人が、楓を通り越し、遠くを見つめて言った。
「昔……ここへ堂本に連れて来られた桜は、そこまで警戒してなかった気がするけどね」