嘘つきなキミ


「お疲れ様でしたー」


最後の客を無事見送り、店内の片付け作業に入る。
上のホスト達は先に帰り支度を済ませ、次々と店を後にして行く。

楓はモップを手にして無心で床を磨く。


『コールなしで、ゆっくり飲む…?』


今日のことを回想して。
結局、今日の売り上げも一番はレンだと楓の耳に聞こえてきた。

周りのざわつく会話を所々拾った結果、どうやら本数は少なくても、マサキのテーブルよりも高価だったのが今日のレンの勝因だと。
もちろん、マサキの売り上げが上回る日もあるらしいが、月末の結果はいつもレンで落ち着くらしい。


「指名…されない方が気楽だ」


ぽつりと呟いた楓の後ろから足音が聞こえた。


「あれ? お前一人か?」
「…堂本さん」


その声と姿に驚いたあと、「一人」と言われて辺りを見回した。
すると、いつの間にかフロアには誰も居なくなっていた。


「あ、あれ?」
「気づかなかったのか。ひでー連中だな…まぁでも裏にはまだいるんだろうな」


『仕方ないな』といった感じで堂本がそう言うと、無意識なのか、開店前と同じ位置に座って煙草に火を点けた。
そして煙草を口の端に咥えたまま、楓に話し掛けた。


「どうだ?」
「…まだ、なんとも」
「レンとなんか話、したか?」
「…いえ…これと言って」
「そうか」


ふっ…と笑う堂本は、なんだか心地いいような表情だった。


「わた…“僕”は、この世界のこと、なんにも知らないですけど。でも、レンさんてなんか変わってますよね…」
「どうしてそう思う?」


「どうして」と言われたら、具体的には出てこない。ただ、そう感じたから言っただけで。


「ふっ…その調子で着眼点を店にも向けてくれ」


自分のすべきことはホストだけじゃなかった。
そのことを楓は思い出して、再び床を磨き始めた。




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