嘘つきなキミ
「お疲れ様でした」
瑠璃を送り出して、数時間。
滞りなく閉店して、他のホストやスタッフに挨拶する。
その時に後ろから声を掛けられた。
「よう、新人」
その声に振り返ると、初めて言葉を交わすであろう人物…リュウが立っていた。
「あ…リュウさん。お疲れ様です」
戸惑いながら楓は挨拶をする。
そんな楓を上から下へとジロジロと見て、ポケットに手を突っ込んでリュウが笑う。
「今は貧弱そうな男でも、モテるんだなぁ?」
楓はそのリュウの言いたいことが読めなくて警戒する。
もしかして、何か気付いているのでは…。そんな思いから、背筋を少し伸ばして目に力を入れた。
「あのお前を指名してくれてる客。こういうとこ慣れてなさそうだよなぁ?」
片手の爪を弄りながら、変わらずニヤついてリュウが話す。
楓は何も答えずに黙ってリュウの様子を窺っていた。
「なんも知らない客(オンナ)掴まえて、意外にお前もそんな『誠実です』ってフリして色営(いろえい)してんじゃねーの」
「…は? すみません。意味がわからないんですけど…」
「ったく…マジで何にも知らねぇのかよ。ちょっとはベンキョーすれよ」
「……すみません」
舌打ち混じりで身に覚えのないことに絡まれる。
だけどここで喰って掛かる程、楓は強くもない。むしろ、何かあったらどうしようかと逃げ腰になるくらいだ。
「あー、腹立つ。お前みたいなハッキリしねぇヤロー」
確かに、リュウと楓とは性格も考え方も、恐らく対極に位置するであろう。
色々な人間がいる。
そしてホストも人間だ。
だったら別に珍しいことでもないのだから、気に入らないのなら放っておけばいいのに。
楓はそう考えるが、その時点でリュウはやり方が違うのだ。