嘘つきなキミ
「じゃーな。あ、無理して着なくていーからな!」
玄関で靴を履いた堂本が奥に置いた紙袋の方を見て言う。
楓も同じ方向を見たあとに、堂本と向き合ってお礼を言った。
「すみません…あの、よろしくお伝え下さい」
「…家の中くらいしか、着れないかもしれないけどな」
「…そう…ですね」
少し複雑な思いで目を伏せて、楓は答える。
バタン、と玄関が閉まり、完全に一人きりになってから顔を上げた。
堂本が去って行った玄関を見つめて、楓はそのまま立っていた。
『家の中くらいしか』
堂本の言葉がまだ残っている。
先程ちらりとのぞいたあの紙袋に入っている服。
あれは色合いなどからも、女性的なデザインのものが殆どだと想像できた。
それが似合う似合わないは別の話として。
それを今、外で着ることは危ぶまれる。
別に女を隠すとかそんなこと、問題はなかった。
ちょっと前までは。
しかし、今楓が思うこと。
ほんの少し…そう、気のせいだ、と思える程度。
でも僅かながらに心に思うことも事実。
それは、堂本が『同志』と言った女性への興味と嫉妬。
そして、その堂本の前ならば、女になってもーーー。
女性らしくあってみたい、と自然に思ってしまう。
この短期間でそう思ってしまうことは自分自身、信じられない。
けれど、それ程自分は堂本の人柄に惹かれていることも、わかっていた。
「生涯独身……か」
そう言い切った堂本を思い出して口にする。
『生涯独身』
それは一体どういう意味合いから出てきたのだろうか。
その理由は考えてもわかることではなくて、楓はひとつ息を吐いて部屋へ戻った。