嘘つきなキミ
男と密室で、二人きり。
そんな事実に気付いて、楓はきゅっとシーツを掴んだ。
そんな小さな行動すら、その男は目ざとく気がつく。
「さっきも言った筈だ。別に喰ったりしねぇって」
呆れた口調で気怠そうに、カウンターに肘をついて頭を掻く。
一連の流れを思い出して、楓は恐る恐るその男に話し掛けた。
「…あの、私あれから…」
シーツを掴む手を自分で見た時に気が付いた。
今、自分が着ている服は、さっきまで着ていたものとは違うことに。
そこから想像することは、目の前の男にも伝わったようで…。
「服はそこに乾かしてある。ちなみに着替えさせたのはおれじゃねぇからな」
そう言って指されたカーテンレールには、間違いなくさっきまで着ていた自分の服が干されていた。
「さっきまで居たやつが、全部やった」
「え…」
「もちろん、おれは水やら買いに行くついでに席外してた」
楓は自分の膝もとにある新品の薬に視線を落とした。
「どうして…」
体が目的でもないなら、どうしてこんなことをするのか理解出来ない。
そう思って口から出た言葉に、男は言った。
「男が、ダメか」
出逢って間も無い、しかも大して話すらしていないのに言い当てられた楓は目を大きくするだけで、何も答えられなかった。
「…お前、名前は?」
「……楓…」
「楓」
ただ、名前を呼ばれただけなのにドクン、と心臓がひとつ鳴った。
その理由はわからなかった。
動揺している楓に、その男は信じられないことを口にした。
「おれのとこに来るか?」