嘘つきなキミ
そんな光景は日常的なのだが、どうもリュウという人間が好まないのか、ケンは心で舌打ちをしたくなるような気持ちだった。
同じホストでもシュウやレンにはこんな嫌悪感を抱くことはない。
その違いが何か、とは明白ではないが、ただケンは本能でリュウを嫌っていた。
それはどうやらリュウも同じようで。
「ああ、ケン。その辛気臭いカオ、直しがてら酒持ってきて」
「…はい」
レンとは明らかに違う後輩の使い方。
違うのは仕事の内容ではなく、ものの言い方や態度だ。
どこかレンの下についている楓(シュウ)を羨ましく思いながらケンは指示に従いテーブルを離れた。
「…そんなに使えない新人クン?」
そのケンの後ろ姿をチラリと見て絵理奈がリュウに聞く。
リュウは絵理奈の髪を軽く撫で、グラスを手に取り喉に流す。
グラスを元に戻すとカラン、と氷が音を立てた。
「…っつーより、生意気なカンジか」
「へぇ…リュウ相手に反抗したりするの?」
「いや…ただ新人は新人らしく大人しくしてりゃいいんだよ」
「こわーい」
キャハハと軽い笑いで絵理奈が言うと、リュウはそれに合わせて笑みを浮かべる。
「ほんと…鼻につくやつばっかりだ」
「他にもいるの?」
「…あいつらの話なんて、もう今はいいだろ? 今度ゆっくりアフターでな…」
「なにそれぇ! 自分から振ってきたくせに!」
「…絵理奈。だから、今度ゆっくり…な?」
リュウは声のトーンを落とし、妖艶な笑みを浮かべて絵理奈の頬を手の甲で、ツッと撫でる。
絵理奈は初めてでもないのに、そのリュウの顔と仕草に頬を紅潮させていた。