嘘つきなキミ
「あー…なんか疲れたな…シュウがいねぇからか?」
店を出たところで誰に話し掛けるわけでもないのに、ケンはそう口にした。
「シュウって?」
背後で自分の言葉を拾った声がして、バッと振り向く。
「…あ、あんた…」
「えへー。偶然だね! さっきはどうもー」
ケンの後ろに居たのは絵理奈だ。
ほろ酔いなのか、先程店で見た時よりも、トロリとした目と赤い顔をしている。
絵理奈は少しふらつくようにしてケンにまた一歩近付く。
「リュウと上手くいってないんだって?」
気安く腕に手を添えられたケンは、さり気無くその手から逃れようと腕を動かす。
その様子を感じ取った絵理奈は上目遣いでケンを見上げてにっこりと微笑む。
「…タイプが正反対だぁ。リュウと」
「…飲み過ぎですよ」
「たまに、新鮮かもー」
リュウも、この絵理奈も、ケンにとってはどうでもいいのだが、店に影響を与えるかもしれない。
そう思うケンは、どう対処していいか迷っていた。
「ねぇ。『シュウ』ってだぁれ?」
「や、なんでも……」
「あー。リュウが『面白くない』って言ってたもう一人かな?」
「えっ!」
リュウに目を付けられているのが、自分だけではなく、シュウもだ。と確信したケンはそのまま黙った。
「その人も興味あるー。シュウって人もケンとおんなじタイプ? 顔は? かっこいい?」
「…リュウ…さんが、そんなこと気にしてるの知ったら怒りますよ」
「えぇ? んー。でも別に絵理奈のカレシなわけじゃないしー」
絵理奈は人差し指を艶やかな唇に添えながら口を尖らせる。
そして、何か思い付いたような顔をしたかと思えば、急にケンの腕を強く引っ張った。
「っ…な、なにす…!」
絵理奈はケンの頬に背伸びをしてキスをした。
ケンは驚きのあまり言葉が出なく、触れられた頬を手で拭う。
「だから、こんなことするのも絵理奈の自由なの! じゃねー」
一方的に絡んできて、勝手に去っていく絵理奈を見て、ケンは渋い顔をした。
「酒くせ……サイアクな女…」