嘘つきなキミ


「おはようございます」
「はよ…」


パタンとロッカーを閉じて楓は挨拶をした。


「…眠そう…ですね?」
「昨日は隣室からの騒音がな…」
「隣室…」


二人きりのロッカー室。
しかし楓はそこまで緊張も警戒もせずに話をしていた。


「…もしかして、ケン…ですか?」
「…酒でも飲み過ぎたのか知らないけど」


それは、今居る相手がレンだからだ。

レンは唯一、同じホストという立場で楓の秘密を知る男。

その、“男”でありながら、警戒せずに居られるのはレン自身の“女に興味がない”という態度。
そして、楓の絶対的存在、堂本がレンを信頼しているのを知っているから。

まして、この間、堂本から『初めて拾ったのはレン』と言っていたのを思うと、密室に二人きりになったところでなんの心配もせずに居られた。


「あの…」


楓の問い掛けに、レンは無言で視線を向けるだけ。
その綺麗な顔立ちの瞳に見つめられて、楓は言葉を飲んだ。


「あ、その……」


レンに堂本のことを聞いてみたい。

多分、かなり昔からの付き合いのレンなら、堂本について色々詳しいのではないか、と。

かと言って、具体的になにを聞きたいと、固まっている訳ではなく。
漠然と、堂本とレンのこと。―――堂本の背景が気になるだけだから、なにをどう質問すればいいかわからなかった。

その微妙な間の時に、大きくガチャッとドアが開く音が割って入った。

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