嘘つきなキミ

「ちさちゃん。ありがとう、いただきます」


普段は見せない笑顔でレンが言って、グラスを傾ける。
それをまるで水でも飲んでいるかのような早さで流し込むのを見て、楓は毎回のことながら驚いてしまう。


「レン、ピッチ早いー」
「美味しいお酒は進むからな」
「ほんと? 良かったぁ」
「飲むお酒が問題なわけじゃない」
「え?」
「大事なのは“誰と飲むか”」


そんな会話をあのレンがする。
関係のない自分ですらドキドキとしてしまう。
楓は顔に出さないように、心を落ち着かせるように再び酒を作る。

気付けば入れたばかりの筈のボトルも空になり、また新たにボトルを入れる。その繰り返し。
その酒は客も多少飲んではいるが、殆どをレンが消費していた。

楓に至っては、飲む暇が与えられずに、酒を作ったり席を外して動いたりとで時間は過ぎて行った。


「それじゃ…寂しいけど、送っていく」


最後の客にそう囁いてレンが立って客と二人で外に出る。

それを見送って、楓はふーっと息を吐くと閉店後の片付けを始めた。


「お、シュウも結構飲んだ?」
「え?」


裏からトレーを数枚持ってきたケンが来て声を掛けられる。


「いや。赤いから。顔が」


ケンに言われて楓は手を頬にあてたかったが、止めた。

顔が赤いのは、飲んだからではなく、レンの甘い言葉をまた聞いてしまったから。

そんな説明出来る訳も無い。

しかし逆に好都合な言い訳を、ケンの方から提示してくれているのだから、楓はそれに乗っかった。


「あー…少し。顔に出てるんだ、僕」
「シュウ酒弱いのか」
「……強くはないかもね」






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