嘘つきなキミ


(な、何を言ってるの―――…?)


怪し過ぎるその誘い文句に、何も言葉が出なかった。
今、「男がダメか」と言い当てた癖に、男である自分のとこに「来るか?」だなんて馬鹿げてる。
楓はそう思った。


「別に無理強いさせるつもりはない。ただ、楓が必要なら。それだけだ」
「…ちょっと…意味がわかりません…」


すると、男が椅子から立ち上がってゆっくり楓に近付いた。
そして内ポケットに手を入れて何かを取り出しながら言う。


「…ここで。もし必要なら、雇ってやるよ」


取り出したものは一枚の名刺。
それを手渡ししないよう、男はひゅっと楓の布団に投げた。
その名刺には【ホストCLUB DReaM 代表 堂本由樹(どうもとよしき)】と書いてあった。


「ほ、ホスト…⁈」
「でも、男嫌いがどの程度か知らねぇからな。あとは楓、お前が決めりゃいい」
「ちょ、まだよくわかんな…」
「金と家」
「え…?」
「金と家が、必要なんじゃないのか?」


ストレートに言われると、返す言葉も嘘を吐く余裕もなかった。
そんな楓の様子を見て、“あたり”だと確信して、堂本は続ける。


「どの程度の覚悟であの場所に座りこんでたかわかんねぇけど。もし、“覚悟”があるなら、おれはいつでも受け入れられる」
「―――それは…ここの裏方、として…?」
「あいにく、裏は人足りてんだ。おれが望んでるのは“ホスト”」
「ホ―――⁉」


(やっぱりこの人、おかしい…!)


楓はそう思って堂本を見上げた。
その視線を受けた堂本は何食わぬ顔をしたまま話を続けた。


「今決めなくてもいい。とりあえずアパート(ここ)、数日使え」
「数日…って」
「ああ。心配すんな。おれはちゃんと別に部屋がある」


(別に…? 一体この人何歳で、いくら稼いでんの⁈)



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