嘘つきなキミ
「…堂本…さん…?」
自分から目を逸らし、どこか遠くを見つめるような堂本が心配になる。
しかしそれ以上、なんと言っていいかわからない楓はそのまま堂本の顔を見て、反応を待つだけだ。
すると、堂本が『ふっ』と小さく自嘲するような笑いを漏らして目を伏せた。
そしてゆっくりと口を開く。
「…そこまでの理由なんて想像してなかったから。悪かった…楓」
楓は、ホストクラブという男所帯に居る事実はどうであれ、堂本という人間に拾われ、出逢えたことに不満どころか感謝しているくらいだった。
だから、今、目の前の堂本の謝罪の意味を理解すると、それを否定する。
「や、やめて下さい! 決めたのは私だし、何より助けられてると思ってるくらいです! それに一人じゃない…堂本さんと、レンさんが」
「おれは繰り返してるんだな」
楓の言葉に被せて堂本は苦笑した。
その堂本の笑いと言っている意味はわからない。
楓はそのまま固まって堂本を見るだけ。
「…楓。早くにわかってよかった。もう店には来なくていい。これ以上傷をーーー」
「大丈夫ですから!」
今度は逆に、堂本の言葉に楓の言葉を被せる。
「大丈夫」と真っ直ぐな瞳で言い切られた堂本が今度は黙る番だ。
「…大丈夫。やっぱり堂本さんが初めに言ったように、逆に安全な気がするし…何より、ずっとこのままじゃいられないから。変わらなきゃ…前には進めないから」
「…そうは言っても、現にリュウが絡み始めてんだろ?」
「それは“男”としてですから」
楓は必死で否定した。
それは今の環境を手離すことが嫌なのではなく、堂本にさっきのような傷ついたような遠くを見る目をして欲しくなかった。
ただ、それだけ―――。