週末シンデレラ
一章:偽りの出会い
昼休みの食堂は、冷房が八月の蒸し暑さに負けている。
省エネのために温度が高く設定されているうえ、全社員の五分の一にあたる百八十人ほどがひしめきあっていれば、仕方がないのかもしれない。
しかし今、わたしが手に汗をかいているのは暑さのせいではなかった。
「了解……明日、楽しみにしてるね……っと。よしっ」
「詩織(しおり)、そんなにかたくならなくても。紹介してもらうだけでしょ?」
友達にメールを送り終え、わたしが気合いを入れるように右手を握ると、目の前に座っていた同期の美穂(みほ)は呆れたように笑った。
「男の人、紹介してもらうなんて初めてだから……緊張しちゃって」
わたしの汗の原因はこれだった。
加藤詩織(かとうしおり)。二十四年間、彼氏なし。合コンに行ったこともなくて、明日の土曜日に初めて男性を紹介してもらう。その緊張と不安で、会う前からすでに余裕をなくしていた。
だけど、紹介が嫌なわけじゃない。むしろ、嬉しい。
就職して二年目。やっと仕事にも慣れてきたし、周りは誰が好きだの、彼氏とどこへ行っただの、楽しそうな話ばかりで、わたしもそろそろ彼氏がほしいと思っていた。
そんなことを高校の時から仲がいい友達に話すと、有り難いことに彼女の彼氏が男性を紹介してくれることになったのだ。
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