週末シンデレラ
「ふたりとも、真剣になんのお話をされているんですか?」
「あ……上川くん」
声の主を見上げると、上川くんが日替わり定食のおぼんを持って立っていた。
「ヒミツよ。乙女の内緒話だから、いくら可愛い上川くんでも入ってきちゃダメなの」
美穂がにっこりと笑ってたしなめると、上川くんは苦笑した。
「えー、そう言われると気になるけど、大久保さんは厳しいからなぁ。加藤さんは優しいから、仲間に入れてくれますよね?」
「うーん……今日はダメかな」
「うわっ、加藤さんに断わられるとキツイな。じゃあ、今日はおとなしく退散します。今度、一緒にご飯へ行ったときに聞かせてくださいね」
上川くんはそう言うと、人懐っこい笑みを浮かべて去っていく。湿っぽくなっていた空気は、いつの間にか彼の登場で一気に緩んでいた。
「上川くんってさ、絶対詩織のこと好きだよね」
「なっ……なにそれっ」
上川くんの姿が見えなくなると、美穂がいきなり変なことを言うから、思わず噴き出してケラケラと笑ってしまった。
「そんなわけないって、なに言ってるの」
「上川くん、総務部に来たら、いっつも詩織のこと探してるんだよ。気づいてないの?」
「え、そ……そうなの?」
「今だって、詩織の深刻そうな顔を見てられなかったんだと思うよ。ちゃっかり、ご飯まで誘ってるし」
「ご飯も冗談でしょ。名刺作ってあげたことを、まだ気にしてくれてるんだと思う」
「そんなことないよ、本気だと思うけどなぁ。詩織は鈍感なんだから」
「そうかなぁ」
「係長がダメなら、乗り換えてもいいんじゃないの?」
「変なこと言わないでよ。上川くんに失礼だって」
美穂の冗談に呆れながら、わたしは係長のことが気がかりで仕方がなかった。