週末シンデレラ
握りしめていたスマホが着信して震えたのは、それから五分くらい経ってからだった。
画面に表示されているのは、係長の名前。すぐにかけ直してこなかったのは、きっと戸惑いの現れだと思う。
「……はい」
無視をする、という選択肢は、頭をチラついてすぐに消えた。
『その、会いたくなる……と言ってくれたのは、聞き間違いだったのかな?』
遠慮がちな声。どんな表情で、どんな気持ちで、わたしにたずねているのだろう。
係長の姿を想像すると、胸に熱い感情がせり上がってきた。
「聞き間違いじゃ、ありません」
一瞬のうちに、自分のことを何度も「馬鹿だ」と罵る。電話の向こうで、係長が動揺している気配があった。
『でも、きみは……もう会えないと言っていなかったか?』
「あ、あれは違います。平日はもう会えない、という意味なんです」
苦しい言い訳だと思う。気がつけば“カオリ”として出会ったときから、上手く言い訳ができたためしがない。
だけど、いつも係長は信じてくれた。