週末シンデレラ


握りしめていたスマホが着信して震えたのは、それから五分くらい経ってからだった。

画面に表示されているのは、係長の名前。すぐにかけ直してこなかったのは、きっと戸惑いの現れだと思う。

「……はい」

無視をする、という選択肢は、頭をチラついてすぐに消えた。

『その、会いたくなる……と言ってくれたのは、聞き間違いだったのかな?』

遠慮がちな声。どんな表情で、どんな気持ちで、わたしにたずねているのだろう。

係長の姿を想像すると、胸に熱い感情がせり上がってきた。

「聞き間違いじゃ、ありません」

一瞬のうちに、自分のことを何度も「馬鹿だ」と罵る。電話の向こうで、係長が動揺している気配があった。

『でも、きみは……もう会えないと言っていなかったか?』
「あ、あれは違います。平日はもう会えない、という意味なんです」

苦しい言い訳だと思う。気がつけば“カオリ”として出会ったときから、上手く言い訳ができたためしがない。

だけど、いつも係長は信じてくれた。


< 107 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop