週末シンデレラ
『平日はもう……って、一度も平日に会えたことがないけどな』
係長がクスリと笑う。声が明るくなっているように思った。
『俺は回りくどいかもしれないけど、カオリさんは言葉が足りない』
「す、すみません」
『いや、責めているわけじゃない。なんだか、おかしくなっただけなんだ』
係長の小さな笑い声が耳をくすぐる。元気になってくれたことに、心の底からホッとした。
『今度会うのは、平日がダメなら土曜日はどうだろうか?』
「あ……たぶん大丈夫ですけど、またあとでお返事してもいいですか?」
会うなら“カオリ”にならなくちゃいけないので、また麻子に手伝ってもらうことになる。
彼女の美容院の予約を取ってからじゃないと確実な返事ができない。
『わかった、もしダメなら教えてくれ。予定を変更するよ』
「ありがとうございます……じゃあ、またあとでメールしますね」
『ああ、おやすみ』
「おやすみなさい……」
『……』
「……」
『…………切らないのか?』
「つ、都筑さんこそ」
なんだか名残惜しくて、わたしは係長から電話を切るのを待っていた。それなのに、向こうもわたしが切るのを待っていたようだ。