週末シンデレラ
植物園の中は「熱帯」と書いていただけあって、南国の雰囲気が漂っている。色鮮やかな花々が育てられ、バナナの葉で作った小屋もあった。
都会から隔離されたような空間に、すっかり身も心も癒されていく。
係長の隣にいられて楽しいし、幸せだ。心からそう思うのに、いつも寂しさがつきまとう。
「――さん、カオリさん?」
植物園から出て、ぼうっとしたまま車へ乗り込むと、係長に声をかけられた。
「えっ!? あっ……はい?」
まずい……。聞いてなかった!
ハッと気づいて係長を見ると、彼は目を丸くして、じっと見つめてきた。こちらの様子をうかがっているのがわかる。
「あ……いや、ここを出たらお茶でもしようかって」
「ちょっと小腹が空きましたもんね」
「それから少し車を走らせて、ご飯でも食べに行こうか……と」
「はいっ。お願いします」
係長に心配させてはいけない。笑顔で大きくうなずくと、彼はしばらくわたしを見たあと、車を発進させた。
植物園を出て、近くのこぢんまりとしたカフェに寄る。店内は空いていて、窓際の席に案内された。
夕焼けに染まる街並みを見て、息をつく。メニュー表をめくると、美味しそうなケーキの写真が載っていた。
けど、あんまり食べたいと思わないな……。
「……カオリさん」
「は、はいっ」
向かいに座っていた係長に呼ばれ、メニュー表から目を離す。係長は、なぜか不安そうに眉を寄せていた。