週末シンデレラ
「言っておくが、買い物に付き合ってほしいとか、美術館へ付き合ってほしい、という類(たぐ)いのものじゃない。カオリさんと、恋人として付き合いたいんだ」
「恋人として……」
付き合えるものなら付き合いたい。だけど、偽りの姿では恋人として深い関係になれない。
メイクを取れば、ウイッグを取れば……係長が好意を抱いた“カオリ”じゃなくなってしまう。
そんなこと、最初から全部わかっていたはずなのに……。
麻子にだって、注意をされていた。ついに、自分の感情を抑えられずにいたツケがきたのだ。
「返事は、今度会ったときで構わない。ほら……まだ、お礼をしてもらっていないし」
係長からミュールのお礼の話を持ち出すのは初めてだった。わたしが、この場で断ると思っているのかもしれない。
「ありがとうございます……では、そのときに」
今、断ることだってできるのに、それができない。自分の弱さを痛感しながら、もう一度だけ一緒にいたいと思った。