週末シンデレラ
その優しさが、残酷であると係長は気づいていない。
“カオリ”への優しさを感じただけで、諦められるのだろうかと辛くなったのに、“詩織”だと知られた状況で心配されると、ますます諦めがつかなくなる。
「……では、お借りします」
「いや、返さなくていい」
わたしの顔をいっさい見ずに告げる係長に、高い壁を作られたようで寂しくなる。
「失礼しま……っ」
満足に挨拶もできないまま、わたしは部屋を飛び出した。雨ではないもので視界がにじみ、噛みしめた唇が震えた。
駅まで着くと、トイレに入ってウイッグをかぶり直した。
やっぱり、麻子がしてくれたみたいに自然にはできなかったけど、家に帰るまでならとりあえずこれでいい。
それに、傘を持っているのに全身がびしょ濡れのわたしは、傍から見たらそれだけでかなり変だろう。
だけど、そんなことはどうでもよかった。係長に受け入れてもらえないことが、一番辛かった。