週末シンデレラ


駅へ降り立つと、一緒に社員旅行へ行くらしき人がいた。港へ向かう後ろ姿を見ながら、知らない人だと思い、声をかけるのはやめる。

今回、旅行へ行くのは総務部と営業部の営業一課。総務部を除いて話をしたことがある人は、上川くんくらいだった。

まだ美穂がいるし、一緒の部屋だから楽しみもあるけど、そうじゃなかったら、四六時中、係長のことだけ目で追ってしまいそうだ。

集合時間の十五分前に港へ着くと、チラホラと人の姿が見えた。

美穂の姿を見つけて駆け寄ると、総務部の人が集まっていて、その中に係長もいた。

「おはようございます」

挨拶をしながら、両足の爪先をもじもじと合わせる。

ミュールに気づいてほしいような、ほしくないような……曖昧な気持ちで居心地が悪い。

「……おはよう」

係長の視線が足元に注がれる。

わたしがミュールを履いてきたことに、気づいたようだ。だけど、すぐに海のほうへ顔を逸らし、なにも言わなかった。


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